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生物学における永遠のテーマは進化か?

京都大学の研究成果のページを読んでいたら、とても面白かった。

鯨類の化学感覚能力の一端を解明

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/150304_1.html
ヒゲクジラ類という、イルカ的な生き物の中でもハクジラより早く進化的に分岐した種における、嗅球の形状を組織学および比較ゲノム学の両面から調査した論文。
結果、ヒゲクジラ類の嗅球には背側の領域が存在しないことがわかった。
2007年のNature誌で、坂野研が嗅球の背側領域を欠損するマウスを用いて、天敵や腐敗物のニオイに対する先天的な忌避行動を示さないことが報告されている。ヒゲクジラ類も、進化の過程でこうした忌避行動につながる嗅覚能力を失った可能性が示唆された。また、全ての現生鯨類は、甘味やうま味、苦味を感知するための遺伝子を失っていることがわかった。

つまりクジラ・イルカの類いは食べ物を食べても美味しいと感じることは無い、ということを示唆している。
それはどんな気分なのだろう。プランクトン食のクジラなら、まあ味がわからなくても別にいいか、となりそうだけど、イルカに関して言えば、魚を追うモチベーションはどこからくるのだろう。ひもじい、の一点なのだろうか。それはなんだか悲しい気がする。

しかし進化の過程で、背側領域から抜けていく(と言い切るのは語弊があるかもしれないが)というのは興味深い。
天敵や腐敗物のニオイを感知する能力を切り捨てて、視覚やエコーローケーション能力を発達させることで補っていったのだろうか。

紀伊半島におけるニホンザル苦味感覚の進化 -野菜や柑橘類の苦味をわからないサルが急速に拡散した-

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/150723_1.html

ニホンザルでもPTC(フェニルチオカルバミド)に対する苦味を感じない個体がいることを発見された。「苦味感覚の退化がもたらす遺伝子の進化」という一見逆説的な現象が証明されたのははじめて、だそうだ。

本研究成果では(1)この変異遺伝子は機能的なタンパク質をつくらないこと(2)この変異遺伝子を持つ個体はPTCに対する苦味感覚が減弱していること、さらに、日本の17地域約600個体のDNAを用いた分子進化的解析により、(3)この変異遺伝子は紀伊半島西部の群れに限局していること(4)この地域では変異遺伝子が約30%の頻度をもつが、この現象は偶然には起こりえない、つまり適応的に変異遺伝子が広まったことが示唆された。

サイエンス番組でもよく「退化という進化」というテーマが扱われるが、これもそれの一つといえるだろう。データを見る限り、PTCが含まれると飲む水の量が減るということは、「嫌だ」と感じていることが示唆される。単純に考えて、苦い柑橘類でもかまわずガツガツ食べられるほうが栄養がとれるわけだから、それだけ生存に有利だろう。でもこういう問題の検証が、進化を扱う研究で難しいところなのかもしれない--つまり苦い柑橘類だらけの果樹園に普通のサルを放し飼いにして、自然とPTC非感受性の個体を出現を待つ、というアプローチは不可能に近い。研究グループは「似たような進化をした例がないか探索する」というのを今後の展開としているが、これが妥当な次の一手なのだろう。

他の感覚、たとえば視覚や嗅覚に関してはどうだろう。視覚だと色盲が思い浮かぶが、進化の過程で出現した遺伝子変異なのかどうか、研究された例はあるのだろうか?たとえばあえて色の情報をなくしてグレースケールにすることで、よりコントラストがハッキリ見えるようになる、といった進化的な「利点」があったりするのだろうか。

嗅覚に関しては、ある特定の匂いを「芳香」と感じるか「不快」と感じるか、匂い分子の受容体の遺伝子変異によって決まることが知られている。こういう現象にも選択圧がかかっていたりするのだろうか。おもしろいなあ。



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by 5-gekkostate-3 | 2015-09-02 06:43 | 論文

動物の社会性行動を研究中。実験の待ち時間に書きます。


by 5-gekkostate-3

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